あれから桐生先輩にも佐々木くんにも会っていない。
ふたりがいる時の部室にたまたま行けなかっただけなのだけど、無意識に避けていたような気もする。ふたりが恋人同士として仲良くしてるところに私は平気なふりして居なきゃいけないのだと思うと、足が遠のく。
私がこんな思いしていること、ふたりは思いもよらないだろう。でも知ってほしいわけじゃない。だから私は早くふたりの恋愛を心から喜んで、平気にならなければ。

でもまだ無理っぽい、ああやだやだ、などと私は今日また鴻野くんと部室でふたりきりになったのをいいことに、悶々とした気持ち丸出しで椅子の上で体育座りなどをしていた。他人の前でこんな風にすることなんか滅多にないのに。
なぜ鴻野くんの前ではこんなんなってしまうのだろう。事情をよく知っているので話しやすいというのは確かにあるけど、
鴻野くんが基本的に私に興味が無さそうなので、気楽なのだと思う。私のことを分かりたいと思ってくれるひとや、よく分かってくれてしまうかもしれないひとには、恥ずかしくてこんなふうに弱味なんかさらせない。

なので今日もやりたい放題に(いい迷惑)、ぼーっとしながら「チョコレートはないのか」などと言っていたら、ふと鴻野くんが生協でチョコを買ってきてくれた。意外だった。びっくりした。
その時はありがとうと言って普通に食べたけど、よくよく考えてみれば、そんなふうにわざわざ私に甘いもの買ってきてくれるようなひとを私は「私のことどうでもよさそうだから気楽なひと」など思っていたのか、なんて最悪、ということに気づいた。
でも気づけただけ、今までよりマシになったのかもしれない。
私はどうも、自分に向かっているかもしれない他人の好意をみくびって考えているような気がする。

他人だって私と同じように、ひとを好きになるのに。当たり前なのに。今まで特に、恋愛感情を寄せてきた男子の気持ちを全く思いやれなかったのは、そういうことを全然想像できなかったからなのだ。なんてばか。
でもこんな情けなさ、桐生先輩だって似たようなものだったはずなのに。なのにしかるべき相手に出会って、一気に理解っちゃったんだろうか。うらやましい。あともうこういうだめだめな感覚を桐生先輩と共有できないかと思うと悲しいなあ佐々木くんたらすごいわあ。くすん。