今日は桐生先輩とデート。
待ち合わせから解散までずっとしゃべっていた。楽しかった。脳みそうごいた。
桐生先輩から聞く佐々木くんの話は、そのほとんどがダメ出しだった。そう言うと部員たちは皆、
「ダメ出しっていうノロケなんでしょ」
と言うのだけど、それは本当に違って、桐生先輩は「佐々木くんのことは佐々木くんなりに好きだけど、正直『恋』という感じではないし、未だに『部活仲間』という感覚は続いている」*1

というだけあって、さらにもともとのダメ出し体質*2も手伝い、そして付き合っているからには真っ向向き合おうという気概から、佐々木くんにはとても厳しい視線を向けているのだ。
確かに佐々木くんは私から見ても、ヘタレだなー、と思うところはあるのだけど、さすが「お付き合い」をしている桐生先輩には、たくさんのダメなところが見えてしまうらしい。のろけ話は唯一、「風邪をひいたときに佐々木くんがお粥をつくってくれた」ということだけだった。
聞くに喧嘩は多いという。

佐々木くんは自分の考えに疑問を抱かれたり否定されることが嫌いで、よもやそういうことがあるともあんまり思っていないのだ、と桐生先輩は言う。
いわく、それはひとから嫌われるとか、受け入れてもらえない、という経験が圧倒的に足りないせいもあるのか*3、自分の考えを否定されてまで、お互いの違う価値観を「あえて」ぶつけ合う、というようなことをしたくないし、する意味も分からないらしいのだ、と。

桐生先輩は、付き合っているからこそ、思ったことは言いたいし、深く掘り下げていくようなやりとりを、苦痛や不快を伴うことがあってもしたいと思うのに、だからこそわざわざ付き合う意味があると思うのに、
どうやら佐々木くんは、「付き合ってるのにどうしてそんなことしなきゃならないんだ」というふうに思っているのじゃないか、だからいくら話し合ってもズレてしまってしょうがないのだ、と嘆いていた。
佐々木くんは恋愛に、きっともっとのんきな、ほのぼのとしたものとか癒し、を求めているのだろうけど、それは分かるけど、

きちんとした土台もないのに「のほほん」だけ手に入れようなんて甘いんだよ佐々木くんは、と桐生先輩は本当に厳しい。
桐生先輩は時間を費やし言葉を尽くして、何度も佐々木くんと話すのだけど、最後には佐々木くんの「なんとかこの場をやり過ごす」ためのいい加減な結論の仕方と、その内容の的はずれなことに、絶句して終わること度々であるらしい。

佐々木くんは、今まで周囲の誰も言及してこなかった自分の本質に、桐生先輩が目を向けさらにダメ出ししてくることを、おそらくいま全然有り難がっていないだろうと思うけども、

佐々木くん、あのさ、今まで桐生先輩ほど佐々木くんをダメだダメだと言って「くれた」ひとはいなかったんでしょ、それは桐生先輩が誰よりも佐々木くんをきちんと見てくれた結果なんじゃないか、すごいことだよ、甘ようとばっかりするんじゃないよ、このまま愛想尽かされても知らないよ、
と言いたい。
だいたい佐々木くんはなんて果報者なんだろう。こんなに可愛くて、自分のことをこんなに考えてくれるひとが恋人なのだ。

佐々木くんは桐生先輩の意見をちらりとも受け入れようとしないらしく、「ちらりともですか?!」「うん、ちらりとも」佐々木くんがそんなにアホ頑固だとは私は知らなかった。
ほんとに佐々木くん、分かってんの。桐生先輩を選んだのあんたでしょ。好きな彼女からのダメ出しから目を背けて、どうしてわざわざ付き合ってる意味があるの。彼女がほしいだけなの。そんなの私が許さないっつうの。まあ佐々木くんも、桐生先輩がそんなに厳しいひとだとは思ってなかっただろうけど、きっとなにかの因果なんだよ、がんばりなさい。

*1:そんなこと佐々木くんに言ったら佐々木くん死んじゃいますよ、と言ったら、うん、言えないよ、と桐生先輩は言った

*2:子どもの頃から両親にまでダメ出しをしていたという

*3:今までの学生生活はずっといわゆる「人気者」というポジションで来たらしい。確かに佐々木くんは「そういう才能」のあるキャラクターではある