佐々木くんと桐生先輩に、あれから初めてセットで会った。
私は、ひと月も、この日のために心の準備をしてきたのだから、変な顔をしたり妙な態度を取ったり、無自覚にでも不自然な感じを出すわけにはいかなかった。
とはいえ、ふたりが付き合っていることを未だ知らない人が多い部室では、ふたりは以前と変わらない振る舞いをするわけで、はっきりと「カップルとしてのふたり」を見ることはなかったのでひと安心。ふう。
でも、ふたりの会話を注意深く聞いていれば、この短い期間に、ふたりの間の共通テクストが急に増えていることが分かったはずだ。

それは例えば、ゲームだったり映画だったりするわけだけど、それくらいならまだしも、日常を共有する同士特有の共通言語すら見出だされて、私はやっぱり嫉妬した。
私は最近ますます佐々木くんを好きになってしまい、だけどやっぱり桐生先輩が好きなので、もうどちらにということではなくて、素直に、ふたりの仲が妬ましかった。
しかし、ほんとうに、こんな良いカップル無いよなあ…。何より私にとってね。
そのあとみんなでファミレスに行ったのだけど、桐生先輩と佐々木くんに、鴻野くんと私で向かい合う格好になった。

ほかの部員のいないそこでの佐々木くんと桐生先輩は、いよいよ、ちゃんと「カップル」として在った。けど、嫉妬するよりも、あの桐生先輩が、ちゃんと恋愛してるんだなあと思ってむしろ感無量だった。
なんだかもう大丈夫な気がした。大丈夫。
ところで、そのあと、いくつか話をしていて、その流れで、
「なんか、こう、抽象的な話とか、捉らえにくい話をしているときに、うまく言語化できなかったのに、なぜか相手に伝わっちゃうことってあるじゃん。例えば、私は、桐生先輩と、そういうことありますよね」
「うん、よくあるよね」

「ね、ありますよね!!*1…それで、でも、鴻野くんには、全然通じないんですよ。
言葉に出来なかったら伝わらないし、出来てもそのままの意味しか汲んでくれないんです。
だけど鴻野くんは、分かったふりしないので、そういうところが、いいんですよねぇ」
と言ったら、桐生先輩が
「愛の告白か?!」
と言うので、たまげてしまった。
その場では本人も横にいるし、「ええ!?違いますよ」などと戸惑っただけだったけど、あとから、あれ、私は自分で考えていたよりも鴻野くんのこと好いているんじゃないか、と思った。

うーんさすが桐生先輩だな。
ていうか他人からの好意ならまだしも、自分から他人への好意に鈍いってどういう…。私って。

*1:嬉しくなってしまい興奮する私