先日の桐生先輩とのデートは本当に楽しかった。ケーキもおいしくていうことなし。
ふたりきりで会って話すのは、佐々木くんと付き合うことになったという話をされた以来だった。
私は、桐生先輩の「恋人」という席が誰かで埋まってしまったら、私と桐生先輩の関係は、もう以前とは違ったものになってしまうような気がして恐かったのだけど、
そんなことは全然無いことが分かった。それと、私はどれだけ佐々木くんに嫉妬したかしれないけども、そんなのも全くナンセンスだったと思う。ほんとうに、私は一体何をそんなにおびえていたのかな。

むしろ、男子には入り込めない女の子同士の絆を改めて確認できた。いっぱい言葉を使って、色んな話をして、解散したあともしばらく気分の高揚が残っていた。
ふ、恋愛なんてメじゃないぜ、彼氏なんて取るに足らん、などと今までとはうって変わって調子良く思ってみたりした。
しかし覚悟して行ったとはいえ、あんまりらぶらぶな話を聞かされたらヘコんでしまう、と思っていたら、意外にも佐々木くんへのダメ出しが多くて、なんだか少しほっとしてしまった。

ダメ出し自体がのろけ、というよりは、本当にダメ出しなので笑った。
本当にささいなことでよく喧嘩をするんだけど、という。聞くに、
桐生先輩「何で佐々木くんはさあ、そうテキトーなことをテキトーな口調でテキトーそうにしゃべるわけ?」
佐々木くん「そうですか?まあ、ぼくの話し方は特殊ですからね」
桐「特殊、ってなによ」
佐「ぼくは複雑なことを話そうとしているんです」
桐「複雑なことって何だよ」
どんなカップルだ…。

桐生先輩が「佐々木くんは自分の考えていることを、出来るだけきちんと伝えよう、という気がないんだよ」と言うので、
私は、「たぶん佐々木くんはその曖昧さで遊んでいるんだと思いますよ。伝わるかもしれないし、伝わらないかもしれないし、全然違う意味に取られるかもしれない、というのを面白がってるんです」「佐々木くんもそんなこと言ってた…。私には全然分かんない」
そうか。ふたりはそんなところがズレているのか。付き合うまでは、もっと「近い」と思っていた、と桐生先輩。付き合ってみて初めて分かることがいっぱいあるんですね。

ほかにも色々と、あまりにダメ出しばかりなので次の次の日に佐々木くんと会ったときに「テキトーそうに話されるのがとにかく嫌みたいだよ」と伝えたあと「逆に、ぼくのこと何か褒めてました?」と訊かれてしまい、あれっ、そういや何かいいこと言ってたっけ…?と一瞬かなり困った。「あ、でも、楽しそうだよ」と言っておいた。嘘だけど…いや嘘ではないけど…。
予想以上に桐生先輩は冷静だった。むしろ鴻野くんの話をするときの私の方が冷静でなかった。いや、うん、佐々木くんがんばれ。