このあいだ部室を出てから、みんなでこれといった目的もなく東急ハンズへ行った。全フロア見て回ろうぜ、と無駄に息込む私。佐々木くんがすぐに乗ってくれる。
閉店まで2時間くらいしかなかったので結局飛ばし飛ばしだったけど、こういうとこに男子と来るとほんと面白い。楽しかった。
いちばん上でひとりで飛行機の模型を見ていて、後ろからふいにあたまに触れられたと思ったら鴻野くんだった。
この日鴻野くんはやたら私のあたまを触ってきた。なでなでされたりこつんとされたり。私はくすぐったいような気持ちを感じながら、

なに…?なんでこんな触ってくるんだろう、しかもしらふで。戸惑った。
ほんの10日前まで、鴻野くんが私に触ってきたことは一度もなかったのに。
鴻野くんは他人との距離の取り方を決して間違えない、と書いたことがあるけども、それは、自分が相手にどれくらい受け入れられているのかということを、きちんと見定められるということなのかな、と思う。
だって確かに半月前だったら、たぶんこんなふうにやたら触られたりしたら、きっと私はどうしても違和感や嫌悪感がわいてしまっただろう。今なら受け入れられる。というかむしろ、嬉しかった。

でも私の態度ってそんなに分かり易いかな。何にしろ鴻野くんの、距離捉らえ力というのは、敏感かつ正確に過ぎる気がするけど。
あたまをなでなでされながら、これは、なんだろう、親愛のしるし、って捉らえ方でいいのかな?ということを考えた。
私はいま、気付けば鴻野くんのことばっかり考えているようなわけ分からん時期なのだから、こんなことされて、全く、戸惑ってしまう。
自分勝手に相手に近づいていかないのが鴻野くんなのだから、例えば恋愛感情の表出ということはないんだろう。そもそも鴻野くんは私に恋をしない(と以前に本人がそう言った)。

このことをメールで桐生先輩に話したら、
「親愛のしるしで収まるかなあ。きっと触りたかったんじゃないかな。20歳男子としての鴻野くんが」
というような返信をもらう。まあ、その解釈は自然だろうけども、いやしかし…。
もう!こういう考えの進め方ではらちが開かない。嫌になってきた。
つまり、私たちはお互いをとても好きなのだ。たぶん。いや違うかな…。
それをただ、お互い「恋」と呼ばないから、すっきりしないのだ。そしてすっきりなどしなくていい。いいんだけど、鴻野くんの気持ちが気になってしまうのを、私はどうしようもできない。

はあ、おかしいなあ。私は鴻野くんと、シマくんや陽太くんとそうであるように、立派に男女の友情を成立させられるものだと思っていたのに。こんなに心乱されてたら、全然だめだ。本当に予想外。