今日は部活だったのだけど、佐々木くんの元気の無さが気になった。
佐々木くんにある浮き沈みの波の大きさは、十分承知のところだ。沈潜・浮上をだいぶ短いスパンで繰り返す。*1

沈んでいるときの佐々木くんの扱いには正直困るのだけど、次にはすぐ「浮上」の状態が来るのだと思うと私は勝手にわくわくする。沈潜状態で得てきたものをすぐに披露してくれるからだ。佐々木くんのアウトプットが、私は大好きだ。
だから普段はほっておくだけで特に何もしないのだけど、今日は、今まででいちばんひどいような気がした。

いつものようにまとわりついていく鴻野くんや寺本くんに対する反応が悪い。いつも見せる饒舌さに対してあまりに黙りがち。私への対応は比較的まともだがどうも歯切れが悪い。
なにかあったのかな、と考えたときに、桐生先輩とのことを考えるのはあまりに安易だけど、そういうことではないような気がした。
どのへんのことを、考えているのかなあ。
ひとりで机に突っ伏している佐々木くんとか、なんだかぼんやりしている佐々木くんを、なんだかおかしいと思ったのだろう、鴻野くんも、

「佐々木-」とか言いながら腕をつねったりしていた。でも佐々木くんが不機嫌そうにしているのを察して、それ以後、佐々木くんには一切構わずにほかの男子とずっと『こんなミステリ-を書いてみたい』という話をしていた。ずっとだ。
私は「なんでこいつはずっとミステリーの話をしているのか…」と不審に思ったが、あれは、鴻野くんなりの気の遣い方だったのだろうとあとになって思う。
一方、わざとひとの輪から離れる佐々木くんや、帰り道ひとり歩く佐々木くんを見て私はどうしていいか分からずにひとりで勝手にそわそわした。

佐々木くんはいま何を考えていて、どうしてほしいだろう、と、今までに得た佐々木くん読解のための手掛かりをぐるぐる総動員して、考えようとした。
「ぼくは、真面目な性質を、不真面目に見えるかたちで表出させてしまうんです」「ぼくはあまのじゃくなんです」(本人談)「佐々木くんは、ひとから受け入れてもらえないかもしれないってことをあんまり考えないんだよ」(桐生先輩談)「佐々木くんは犬みたいだなあ」(私の普段の実感)…。…。
無意味だった。こんなことしたところでやっぱり何も分からないし何も出来なかった。

私は、黙っている佐々木くんの隣りに並んでみたりしても、結局、沈黙を埋めるのに適切なことばがひとつも見つからずに、黙っているしかなかった。
鴻野くんはずっとミステリーの話をしていた。

そのうち佐々木くんと、今日の話をできるといい。いつになってもいいから。

*1:以前にそれを指摘したら、「あ、本当にそうなんです。よく見てますね」などと言われた。確かに私は佐々木くんのことをよく見ているかもしれないが、よく見ていなかったとしても、その表れ方は露骨なので分かるだろうと思う。自分のその「波」が、他人の目にハッキリ映っていることが、佐々木くんに意外なことだったのか。