昨日、部室で狭山さんとふたりきりになり、また自然と鴻野くんの話になる。
狭山さん沢尻くんカップルのここのところの話題は「ローラちゃんと鴻野君の事」で持ちきりらしい。お互いの見解や対応策の違いによる喧嘩も、一度や二度ではないという。

それはまあのろけ話なのでいいのだけど、そんなカップルの話のネタにとどまらず、最近いよいよ、部員がみんなして鴻野くんに私とのことを「どうなんだ」「告白しないのか」などとけしかけているらしい。だけど鴻野くんはいつだって、
「よく分かんないです」
「よく分かんないです」
とばっかり言うのらしい。
私はそのことは、べつにいいのだ。鴻野くんの考え方でいえば、「お付き合い」は、結婚してもいいと思えるくらい好きになって初めて、始めてもいいと思えることであるようだから。

実際にいままで女の子と付き合ったことがなくて、どうしていいか分かんないのもあるだろうし、私のことをそこまで好きかっていうと、そりゃまあ違うだろうね、と納得のできる話だ。
だけどそれを、「やっぱり(ローラさんの)外見が(好みと違うから)…」と、鴻野くんは、未だにそう言うのだと、狭山さんから聞いて、私は「まだそんなこと言うの。ひどいねー」と言いながら普通にしゃべっていたのに、涙が出てきて、思わず背を向けたら、狭山さんが背中を撫でてくるので、止まらなくなってしまった。

友達の前で泣くのは、子どものとき以来だと思う。こんなことでいきなり泣いたりして、困らせてるよな、と思いながら、しかもいつ部員の誰が顔を出してもおかしくない時間だ。私はむりやり泣き止んで、狭山さんを授業に送り出した。
鴻野くんのなかではいまでも、そういう結論なのか、と思ったら、悲しくて悲しくて、ひとりきり部室で、泣いていたけど、ほんとうに誰にも見つかりたくないなら、さっさとどこかへ移動すればよかったのに、ぐすぐずしていたら、鴻野くんが来てしまった。

さすがに普通にできなくて、「…?どうしたんですか?」「いやべつに…」とぎこちないやりとりをしたあと、ゲームを始めた鴻野くんのとなりで、どうでもいい話をした。
鴻野くんは何も知らないのだから、中途半端に、元気の無いことだけを気付かせても、迷惑を掛けるだけなのに、私はそのあとも、人数の増えた部室を抜けだして、ひとりでぼうっとしているところをトイレに出てきた鴻野くんに発見され、「元気ないですね?どうしたんですか?」などと訊かれて、困ったことになった。
一瞬、全部言っちゃったら楽かなあ、と考えた。

黙ってうつむいて、ただならぬ空気を発しているだろう私は、ふたりのあいだにいつになく張りつめた空気を作っていた(少なくとも私側では)。「…なんでもない。平気だから」「そうですか?」言えない。いまの関係を壊すのはこわい。

…じゃあ、だったら、私がきれいな二重まぶたで、背が高くて、細くて、白くて、もっと可愛かったら、それならよかったっていうの?そんなん…、じゃあなんでそんなに優しいの、どうして触ったりするのよう、と考えては、授業中*1、ぽろぽろ泣いた。

さすがに「あほか私は…」とばからしくなってきて、帰りにはわりと普通にしていたのだけども、家に帰って下の妹に話しているうちにまた泣いてしまい、「あんた(彼氏と別れたときの)私よりひどいよ」と言われる。ほんとどうしようもねーなーと思う。

*1:広い教室なのに少人数で、おじいちゃん先生がずっとしゃべっている