部内に、鴻野くんのことを好いているらしい一年生の女の子がいるのは知っていた。
でも私はその子とは、授業の関係で普段はほとんど顔を合わせないので、その子の気持ちがどれくらいのものなのか、ふたりの仲が現在どんなものなのかということは、全く知らなかった。
一昨日、ふたりの仲に何か進展があったらしい、ということ「だけ」を同輩女子からのメールで知った(最近の部内ではこういった感じで恋バナが広まっていく)。その子は普段からその一年生の女の子の相談に熱心に乗っているらしい。

へー気になるなあ、と言ったら、今度会ったときに話すよ、と言われたのだけど、そんなに何日も待てないような気持ちになったので、つい、
いいや、本人に聞いちゃえ、と思って、私は鴻野くんにほかの用事のついでみたいにして、「(色恋沙汰とかそういう)何かがもしあったら教えてね」というメールを送ってみた。
いつもわりとすぐに返信があるのに全然返事がこなくて、私はだんだん「しまった…」という気持ちになってきた。

だって私と鴻野くんは、そういうことを、そういうふうにして訊いていいような距離感じゃなかったはずだ。
鴻野くんは他人との距離の取り方を決して間違えない。私は鴻野くんの、そういうところが好きなのに、というかそれをいいことに好き放題甘えていたのに、
私の方で、踏み込み方まちがえて、どうすんだ……。どーん。
どうして「間違えてしまった」のかは自明だ。嫉妬と、あと鴻野くんが何も話してくれないのが少し悲しかったから。
だからって…、やってしまったなあ。

どうしよう、謝ろうかな、でもそれも見当違いかな、うーんうーん、と思って結局何もしてない。
あさっては部の飲み会だ。鴻野くんには普通の顔して会って、早く真相を知ってすっきりしたい。鴻野くんに彼女ができたらそれはめでたいことだもの。